遅刻を理由とする従業員の解雇をする際の注意点


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遅刻によって仕事に穴をあけたり、大事なお客様に迷惑をかけてばかりの従業員は、会社にとって解雇を考えるほど頭を悩ませる存在です。

しかしこうしたスタッフが遅刻を理由に即解雇した場合、相手方がその処分を不服として裁判などを起こすこともあるのです。

また遅刻以外の理由であっても会社側が解雇をする際には、それなりの手順を踏む必要がありますので、その流れや注意点を頭に入れておくことが労使間トラブルを防ぐ良策になると言えるでしょう。

今回は、遅刻による解雇で考えられる問題などをご紹介しながら、事業主がとるべき適切な対応のポイントを皆さんと一緒にチェックしていきます。

遅刻の多い従業員が会社にもたらす問題、悪影響

たった1人でも遅刻の多い従業員のいる会社は、お客様サービスや従業員のモチベーションといったさまざまな部分で悪影響が生じやすい実態があります。

例えば、度重なる遅刻によって計画通りの生産ができなくなった工場では、真面目に出勤している他のスタッフに残業などの負担がかかりやすくなります。

またこうした明らかな不公平とも言える状況が続ければ、モチベーションが下がることにより品質の低下や離職者の増加といった問題が生じる可能性もでてくることでしょう。

この他にも遅刻者への指導などを全く行わずに自由にさせていると、「遅刻をしても怒られない」という空気が社内に生まれやすくなります。

遅刻を理由に従業員をすぐに解雇することはできる?

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ここまで紹介したとおり、会社にとってさまざまな悪影響をもたらす遅刻の多い従業員であっても、企業側が何の対策も講じずに即解雇をするのは法律の側面から考えても基本的にNGであると言われています。

労働契約法の第16条と17条を守る必要性

解雇というのは、使用者の一方的な意思表示でできるものです。

しかし解雇によって当該従業員が生活の糧を得る手段が失われてしまうことを考えると、悪質な解雇や不意打ちに近い処分が行われないように労働契約法の16条や17条ではさまざまな制限を設けているのです。

まず労働契約法16条に目を通すと、社会通念上相当かつ客観的に合理的な理由があるときのみ、無期雇用の解雇ができることがわかります。

これに対して17条では、有期雇用の労働者の場合は、やむを得ない理由があるとき以外に、契約満了までの間に解雇ができない形にしているようです。

上記の法律を守らずに遅刻を理由に解雇した場合はどうなる?

罰則によってその履行を確保する発想のない労働契約法の場合、上記のルールに合わない解雇をした場合も、事業主や上司に刑事罰などが科せられることはありません。

しかしその代わりに、労働契約法違反で当該従業員が訴訟などを起こした場合は、民事上での違法という決定により解雇が無効となってしまうのです。

裁判によりこうした結果が出た場合、一度会社を辞めさせた従業員を再び同じ職場で働かせなければならなくなると言えるでしょう。

損害賠償請求されることもある

不当な解雇により収入源が絶たれたことで、生活面にも支障が出た場合は、当該従業員から解雇取り下げの訴えだけでなく損害賠償請求されることもあります。

さまざまな要素から総合的に判断される慰謝料などの金額は、従業員の主張がそのまま通るというわけではありません。

しかし裁判で労働契約法の違反であることが明確になった場合は、金額がどうであれ企業側が損害賠償請求に応じざるを得ない状況が生じてしまうと言えるでしょう。

解雇理由と処分の重さにおけるバランスが重要

万が一裁判を起こされた場合に、労働契約法などの違反で無効にならないようにするためには、解雇に至った理由と処分の重さについて考える必要もあります。

例えば、昭和52年の判例では、あるテレビ局のアナウンサーが遅刻により、2回番組に穴をあけてしまい、結果として解雇になってしまったそうです。

この事件に対する最高裁の判決は、「解雇は重すぎる」というものでした

これに対して会社側でも何度も注意をしているのに全く遅刻が改善される、他の従業員からも不満が続出していた事件においては、「解雇は有効」となったこともあるのです。

こうした形でいくつかの判例を比較してみると、軽い理由であっても何度も遅刻が繰り返されていれば、その悪質性などにより解雇が有効とみなされる可能性は高まると捉えて良いでしょう。

遅刻を繰り返す従業員との間にトラブルを生じさせないためには?

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従業員の遅刻によって生じる問題と、解雇をした場合に生じる労使間トラブルを防ぐには、下記のポイントをしっかり抑えた上で対策などを講じる必要があります。

就業規則の中で遅刻ルールを記載する

まず就業規則を作る際には、遅刻や欠勤などの管理やペナルティのルールをきちんと記載する必要があります。

例えば、3回の遅刻で1時間の欠勤にするなどのルールを記載しておけば、欠勤によって給料が減ることは避けたいという想いから、なるべく朝早く会社に行こうという気持ちも芽生えやすくなります。

また就業規則に書かれている内容は、裁判のときにも関係してくるものとなりますので、会社を守るために細かく遅刻に関するルールを作ることもおすすめとなりそうです。

全ての記録を残す

タイムカードのデータ、欠勤や遅刻の届出書、当該従業員と話したときの記録、反省文などの情報は、裁判のときにも大事な資料となります。

そのため、遅刻についても「あの従業員は時間に遅れて来て、仕事に穴をあけた」というレベルではなく、「何月何日にどれだけ遅刻したのか」といった内容で管理する必要があると言えるでしょう。

即解雇ではなく指導をする

遅刻によって大事な業務に穴をあけたり、短期間に何度も遅刻をした従業員については、問答無用で解雇にする前に、指導や話し合いの機会を設ける必要があります。

就業規則に解雇のルールがあることも伝えた上で、何度かしっかり指導を行えば、会社側としては問題解決に向けて十分に努力したということになります。

また指導によって遅刻が悪いことであると認識できれば、比較的すぐに問題が解消されるケースもあるようです。

解雇よりも段階的処分が理想

遅刻を理由にする解雇では、基本的に段階的に処分をしていくのが理想です。

例えば、解雇によってお客様に迷惑がかかるなどの問題が起きた時には、まず口頭注意と指導を行います。

またこのタイミングで始末書を書いてもらえば、その後に再び遅刻によるトラブルが生じた時の処分も講じやすくなると言えるでしょう。

口頭注意でも改善しない時には、減給や自宅待機といった段階的処分を挟んだ上で、最終的に解雇に至る形です。

初期の段階で指導を行う際には、こうした段階的処分の最後に解雇があることも一連の流れとして伝えておいても良いかもしれません。

ルール違反の中には合理的理由がある場合も

当該従業員の指導をする際には、その理由に耳を傾ける姿勢も必要となります。

例えば、連日続くサービス残業で体調不良に陥っていた場合、過労死や鬱病といった最悪の状況になる前に、当該従業員に心身の負担が少ない環境を与えることで遅刻の問題は解消できることでしょう。

また実家の引越しなどの理由で通勤時間が増えたり、交通事故や人身事故などの理由で普段どおりに会社に辿り着けなかったといったケースを考えると、やはり一方的に指導をするだけでなく本人の話に耳を傾ける姿勢も会社にとっては必要だと言えそうです。

会社と従業員との調整で遅刻のトラブルが解消する可能性もある

上記のように解雇の原因に合理的理由がある時には、通勤や仕事をする部署などの環境面で会社側が何らかの配慮をすることで遅刻の問題が解消できる場合もあります。

例えば、自宅の引越しによって通勤時間が増えてしまい、乗り継ぎの失敗などの理由で遅刻が増えた従業員には、会社近くの社員寮などを提供することで体力的な負担も軽減できることでしょう。

これに対して合理的理由と問題解決に向けた相談を全く無視して一方的な解雇をした場合は、どんなに遅刻の回数が多くても会社側の対応面で訴訟などを起こされるリスクが高まると言えそうです。

解雇通知書に同意してもらう

当該従業員に指導や説明などをした後は、必ず署名押印によってその内容に同意してもらうのが理想です。

この手続きをきちんとおこなった上で双方一部ずつ解雇通知書を保管する形にすれば、後々、不当解雇などの訴えは起こされにくくなります。

また裁判になった場合においても、解雇通知書などの資料一式によって「会社側できちんと指導したこと」と「本人が同意した解雇であったこと」が証明できれば、解雇の取り下げや損害賠償の支払いなどもする必要がなくなると言えそうです。

遅刻を理由にする解雇手続きで悩んだ時には?

悪質とも言える従業員の度重なる遅刻により、解雇などの処分で頭を悩ませた時には、労働基準法や労働契約法に詳しい弁護士などの専門家に相談をしてみてください。

また就業規則の中に遅刻に関する細かなルールがない場合も、弁護士などと相談しながら二人三脚で規定を作ることにより、その後の会社に指導や処分などを行いやすい状況が生まれると言えそうです。

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