従業員に給与を支払う会社を経営する場合、事業主は必ず賃金台帳を作る必要があります。
法定三帳簿のひとつである賃金台帳は、就業規則などと異なり、従業員数が何人であっても必ず作成しなければなりません。
またこの台帳は、労働基準監督署の監督指導においても確認される重要書類となっていますので、プロに見られることを前提とした作成や運用が必要になると言えるでしょう。
今回は、これから会社を立ち上げる事業主の皆さんと一緒に、賃金台帳の記載事項や書き方、保存期間といった基本的なことを詳しく確認していきます。
賃金台帳とは何ですか?
労働基準法を根拠に支払った労働者の賃金額や、その計算のベースとなった事項などを記載した書類を賃金台帳と呼びます。
労働者数に関係なく事業者ごとに作成と備え付けが必要となる賃金台帳は、法廷三帳簿のひとつです。
労働基準法第108条では、従業員を使用する事業主に対して「事業場ごとに賃金台帳を調整すること」や「賃金計算の基礎となる賃金額や事項、厚生労働省令で定める事項を都度遅延なく記入すること」といった賃金台帳の基本的な考えを定めています。
法定三帳簿とは?
当ページのテーマとなる賃金台帳と、タイムカードなどの出勤簿、労働者名簿の総称を、法廷三帳簿と呼びます。
タイムカードを使って管理した労働時間は、出勤簿の中で適正な管理を行う必要があります。
また労働者名簿の中には、労働者氏名、性別、生年月日、履歴、住所、従事する業務の種類、雇用年月日といった必須項目がありますので、従業員を採用する予定のある事業主の皆さんは、雇入れをする前に賃金台帳を中心とした法廷三帳簿の用意をしておくのが理想となるでしょう。
賃金台帳に記載する項目は事業主自ら設定できますか?
労働基準法施行規則第54条で下記のように項目が定められている賃金台帳は、事業主が自由にその内容や項目を変えることはできません。
・従業員の氏名
・性別
・賃金(賞与や諸手当も含む)計算期間
・労働時間数
・労働日数
・時間外労働、深夜労働、休日労働の時間数
・賃金の種類ごとの金額
・控除があった場合はその金額
記載内容に不足があれば労働基準監督署から法令違反で指摘を受けることになりますので、必ず項目条の不備がないように作成するようにしてください。
賃金台帳の対象者は誰ですか?
賃金台帳は、正社員、アルバイト、パートタイマー、嘱託社員、契約社員といった全労働者分の作成をする必要があります。
例えば、法廷三帳簿のひとつである労働者名簿に記載があるのに、賃金台帳がなければ帳簿間に矛盾が生じる形となりますので、基本的には全労働者分の作成が必要という点を頭に入れておくようにしてください。
管理監督者でも賃金台帳への記載が必要となりますか?
残業代や休日出勤分の支払いが要らない管理監督者については、深夜労働時間数だけで賃金台帳を作成する形となります。
管理監督者というのは、経営者と一体的な立場で仕事をしている専務や常務、部門長といった人たちです。
自社で仕事をする管理監督者の呼称が特殊で、賃金台帳や残業代支払いの判断ができない場合は、「出退勤時間に関して厳格な制限があるか?ないか?」といった部分から確認をしてみてください。
また自らの裁量で行使できる権限のない人は、どんな呼称であっても管理監督者には該当しない位置づけとなりますので、賃金台帳作成時には注意をしてください。
賃金台帳と給与台帳は同じもの?
初めて賃金台帳を作成する事業主の中には、給与台帳との違いについて頭を悩ませる方々も多く見受けられます。
月ごとに賃金支払いの情報がまとめられた給与台帳は、労働者ごとに記載をする賃金台帳とは明らかに異なる内容となります。
またこうした書類で代替えをした場合、労働基準監督署から記載事項の不備と判断された結果として、是正勧告対象になると捉えた方が良いでしょう。
賃金台帳の書式(フォーマット)とは?
賃金台帳は基本的に、記載項目さえ確認できれば決まった書式を使わなくて問題がありません。
しかし厚生労働省のサイトでは、下正社員などの常時使用労働者用の様式第20号と、日雇い労働者用の第21号の下記フォーマットを公開しているようです。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/e.pdf
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/d.pdf
賃金台帳の保存期間と保存方法
作成した賃金台帳には、最後の記入日を起点として3年間の保存を行う義務があります。
この法定期間を最低限の期間と捉える一般的な会社では、賃金台帳を5年以上保管するケースが多いようです。
保管場所はパソコン内でも大丈夫ですか?
ひとつの事業所内に数十、数百もの従業員がいた場合は、パソコンを使って賃金台帳の管理をする方法もおすすめとなります。
賃金台帳の作成や保存を電子データとして行う場合は、事業所ごとに画面表示や印字のできる装置を備え付ける必要があります。
また労働基準監督署のチェックが入った場合は、ただちに閲覧や写しの提出ができるシステムが必要となりますので、パソコンを使って賃金台帳の管理をする際には事業所ごとに印刷可能なプリンターなどの用意を行うようにしてください。
事業場がたくさんある場合はどこで賃金台帳を作るもの?
全国にたくさんの事業所のある大会社であっても、基本的にはそれぞれの拠点で賃金台帳の作成を行う形となります。
人事総務部が本社にしかないなどの理由で賃金台帳の一括作成を行う場合は、事業所ごとに台帳をまとめておくことと、作成後はすぐ各拠点に配布することを徹底してください。
保存期間の定められている文書は非常にたくさんある
保存期間が決まっている書類は、賃金台帳だけではありません。
例えば、法廷三帳簿に含まれる労働者名簿や出勤簿についても、賃金台帳と同じように3年間の保存が必要となります。
また雇用保険の被保険者に関する書類や、安全衛生委員会議事録などは4年、健康診断個人票などは5年といった形で保存期間が定められていますので、人事労務管理をする際には注意をしてください。
賃金台帳の不備による罰則
賃金台帳の作成や労働基準法で定めた記載内容は、事業主の義務となります。
ここまで紹介してきたポイントを守らず法律で定められた基準に満たない賃金台帳だったり、そもそも台帳自体が存在していない場合は、労働基準法第120条によって30万円以下の罰金に処せられることもあるため、注意が必要です。
また、前述の法廷三帳簿を含めたさまざまな書類を作成していなければ、それだけ法令違反の罰則が重くなる可能性も出てきますので、賃金台帳などの整備は労働基準監督署などに見られることを前提にしっかり行うようにしてください。
賃金台帳の項目別・記載内容のポイント
賃金台帳を作る際には、下記のような項目別のポイントを抑えて記入を行う必要があります。
労働時間数
雇入れを行う事業主には、平成29年1月20日に出された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置のガイドライン」を前提とした労働時間数の記入を行う義務があります。
また時間の賃金を通常の労働時間働いたものとして支払う場合は、年次有給休暇の取得日については、時間数や日数を該当欄に別々に記載した上、括弧で囲んで記入をするルールとなっているため、注意が必要です。
また休業手当や宿日直勤務の支払いについても、記入のポイントが決まっていますので、前述のガイドラインをしっかり読んだ上で賃金台帳を作るようにしてください。
時間外労働・休日労働・深夜労働
休日・深夜残業を含めた時間外労働を行なった場合においても、前述の管理監督者の扱いを含めたさまざまなルールが設けられています。
また第6号に該当する人については、各事業所で作成した就業規則にもとづいた労働時間数を以て算定ができることもあるようです。
通貨以外で支払われるその他の賃金
施行規則第54条3項では、通貨以外の形で支払われる賃金が存在する場合は、その評価総額を賃金台帳に記載することを義務付けています。
また、手当を含めたその他賃金を支払っている時には、それぞれの手当を基本給と分けて記載をするようにしてください。
賃金台帳と給与明細
法廷三帳簿に位置づけられる賃金台帳は、従業員に毎月配布する給与明細で代用することのできない存在です。
給与明細書は労働基準法上、発行義務のない書類となっています。
しかし平成10年9月10日の通達では、給与や賞与の銀行振込を行う際には、給与明細の発行が必要だと定めているようです。
給与明細への考え方の異なる所得税法
こうした形で労働基準法上は必須ではないとも言える給与明細は、所得税法においては、厚生年金保険、健康保険、雇用保険の各保険料を控除した場合の計算書として発行すべきと義務付けられています。
一括記載をするのが慣行となっている給与明細ですが、月給で働いている正社員などの場合は労働時間数が書かれていないケースがほとんどとなりますので。この書類を賃金台帳として労働基準監督署に見せるのは基本的にNGと捉えるようにしてください。
まとめ
今回は、従業員を雇入れている事業主の義務とも言える、賃金台帳について詳しく解説してみました。
サービス残業が社会問題化している今の時代は、こうした企業の不正をチェックするために、出勤簿や賃金台帳などの法廷三帳簿が確認されることもあります。
また従業員との間に残業代の未払いなどで問題が生じた時に賃金台帳の不備があれば、会社にとって不利な状況が生まれるとも考えられますので、自社を守る上でも決められたルールに則った方法で書類を作る心掛けが必要だと言えるでしょう。
賃金台帳についてわからない点がある場合は?
今回紹介した賃金台帳などについて疑問や不安要素がある場合は、労働基準法に詳しい法律事務所に相談をしてみてください。
代理人としても動ける弁護士に相談をすれば、後々サービス残業などの問題が生じたときにもスムーズな対応をしてもらえます。
また法律事務所のサービスが充実する今の時代は、メール相談や無料相談を開設する弁護士も増え始めていますので、まずは自社に合った手段で気軽に問い合わせをしてみてください。