自由な働き方を代表する裁量労働制に潜んだ問題点と対処法とは?


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自由な働き方に注目する人が増えた現代社会では、労働時間制度の一種となる裁量労働制を採用する会社が多く見受けられるようになりました。

こうした制度を会社の実態が良い形で一致している場合、従業員満足度が高まるだけでなく、生産性のアップなどを含めた多くの好循環が会社にもたらされることとなります。

これに対して裁量労働制だけでなく労働基準法を理解しない事業主がこの制度の導入を決めると、従業員に生じる負担や不満により業務に大きな支障がでることもあるため、注意が必要です。

今回は、裁量労働制の導入を検討中の事業主の皆さんと一緒に、この制度の基本的な考え方や定義、意外な5つの問題点と対処法などを詳しくチェックしていきます。

裁量労働制とは?

裁量労働制とは、従業員自身の裁量によって労働時間の管理をしてもらう方法です。

《労使協定を結ぶ必要性》

この制度を導入する際には、まず会社側と従業員側で労使協定を結ぶ必要があります。

こうした流れを経る必要のある裁量労働制は、基本的に会社側が一方的に制度導入のできない特徴があるようです。

《専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制》

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制という2つの種類があります。

前者については、労働者の裁量に委ねられる特性を持つ下記の業種のみで導入可能となる仕組みです。

この部分については、労働基準法第38条の中に更に詳しい規定が書かれていますので、導入前には必ずチェックをするようにしてください。

・情報処理システムの分析・設計
・研究開発
・編集・取材
・ディレクター
・プロデューサー
・デザイナー
・その他、厚生労働大臣が中央労働委員会によって定めた業務

(システムコンサルタント・ゲーム用ソフトウェア開発・コピーライター・不動産鑑定士・弁理士・公認会計士・証券アナリスト・インテリアコーディネーター・金融工学による金融商品開発・中小企業診断士・弁護士・建築士・税理士・大学における教授研究など)

これに対して企画業務型裁量労働制の場合は、会社の中核部門で企画立案を自律的に進めているホワイトカラー労働者に対して、みなし労働時間を認める制度となります。

裁量労働制の具体的な仕組みとは?

オフィスで働く女性

労働基準法では非常に細かな規定の設けられている裁量労働制も、一般的には下記のような理解のもと、自社のルールとして導入検討する事業主が多い実態があるようです。

《勤務時間自由、出退勤自由》

実労働時間ではなく一定時間を使って労働時間とみなすこの制度の対象従業員は、時間管理全般が個人の裁量に任される形となります。

例えば、事務職などの一般従業員に朝8時30分から出社する就業規則が定められていても、裁量労働制の対象者の場合は無理にこの時間に来なくても良いとされているのです。

また勤務時間についても予め定められた一定時間に合わせるイメージとなりますので、客先で行う明日の残業に備えて今日は早めに帰宅するといった調整も業務に支障のない範囲で可能となる仕組みです。

《労働時間の概念はある》

裁量労働制の労働時間は、あらかじめ「月に◯時間働いたとみなす」という考え方で設定されています。

このみなし時間と呼ばれる労働時間については、裁量労働制の対象者と会社側で過去の実績や現在の出退勤などのデータをもとに決定することが多いようです。

しかしこのみなし時間についても労働基準法の規則が及ぶ部分となりますので、「裁量労働制だから自由に勤務時間を設定できる」といった考えはやめるようにしてください。

《裁量労働制における休日手当て》

所定労働日に働いた時間をみなし時間で計算する裁量労働制の場合、休日出勤の賃金は別途計算して支払う必要が出てきます。

この場合の労働時間については、「みなし労働時間で計算すべきか?実労働時間で計算すべきか?」という部分で多くの事業主が頭を悩ませる傾向があるようです。

しかしこの制度が所定労働日に対する規律であることを考えると、就業規則の中で特別な定めを設けていない限り、実労働時間で計算するのが理想になると言えそうです。

《裁量労働制とフレックスタイム制における違い》

多くの会社で導入されているフレックスタイム制と裁量労働制は、全く異なる制度です。

1日の出退勤時間を労働者自身の判断に委ねるだけのフレックスタイム制の場合、労働時間は実労働時間を使って計算することになるのです。

この両者を混同しているとサービス残業などの問題も出やすくなりますので、裁量労働制の導入を検討する事業主は、他の制度との違いをしっかり確認しておくことも必要だと言えるでしょう。

《裁量労働制とみなし残業制度における違い》

「みなし」というキーワードで関連性があると思われがちなみなし残業制度と裁量労働制についても、全く異なる存在です。

会社側であらかじめ決めた残業時間分を毎月固定で支払うみなし残業は、労働時間全般の管理や出退勤といった部分には関係のない制度です。

実際に裁量労働制の対象となる従業員の中にも、この両者の違いがわからない人も意外に多い実態がありますので、もしスタッフ側から質問があった時には、裁量労働制・みなし残業制度・フレックスタイム制について詳しく説明してあげた方が良い場合もあるといえるでしょう。

裁量労働制に生じやすい問題と対処法1 裁量労働制の対象にならない業種

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裁量労働制の導入を希望する企業に最も多い問題が、当該従業員の業種が労働基準法で定める対象に該当しないということです。

こうしたルールを知らずに全く関係のない職種の従業員に裁量労働制を導入すれば、事業主は当然、労働基準法違反になってしまいます。

また近頃では、裁量労働制の導入目的だけで新部署を強引に設立したり、労使協定をスムーズに通すために会社役員を労働者側の代表に位置づける会社も出てきていると言われています。

《事業主自身が正しい法律知識とモラルを持つことが必要》

裁量労働制の無理な導入によって労働基準法違反をしないためには、事業主自身がきちんとした法律知識とモラルを持って社内ルールの検討を行う必要があります。

また裁量労働制の導入が残業代の削減などを目的としている場合は、労働基準法に詳しい弁護士に相談をしながら「他に何か良策はないだろうか?」という検討を重ねる方法もおすすめとなるのです。

特に労務問題を多く取り扱う弁護士には、残業代削減やサービス残業代問題解消に繋がるプランも多く提案できる傾向がありますので、無理な事業運営をする前に専門家に助けを求める心掛けも会社を守る上では必要だと言えるでしょう。

裁量労働制に生じやすい問題と対処法2 実労働時間とのかけ離れすぎ

裁量労働制によって比較的自由に出退勤ができるようになったとしても、実労働時間と裁量労働制の間にあまりにも大きな開きが出る状況は問題です。

こうした形で事業運営ができれば、事業主にとって人件費の削減というメリットが得られるかもしれません。

しかしみなし労働時間と実労働時間の開きに不満を感じる従業員が出てくれば、そこから離職者の増加という問題が生まれることもあるのです。

また離職者の増加は円滑な事業運営に欠かせない大事な人材を失う状況を招きますので、注意をしてください。

《従業員との話し合いや見直しをかけられる体制が必要》

実労働時間とみなし労働時間との開きによる問題を膨らませないためには、労働者代表もしくは労働組合に相談をして、みなし労働時間の見直しをすることも必要です。

また実労働時間があまりにも膨らむ背景には、従業員の働き方やそのプロジェクトの問題が大きく影響していることも考えられますので、当該スタッフとのコミュニケーションを頻繁に取りながらより良い仕事の進め方を会社側で提案していくことも、忘れないようにしてください。

裁量労働制に生じやすい問題と対処法3 長時間労働の蔓延

裁量労働制によって出退勤の時間が自由になると、「朝早く起きなくて良いなら、もっと夜間に働ける」といった考えにより長時間労働が増えやすくなるとも言われています。

前述のとおり、こうした会社内の雰囲気により裁量労働制の従業員がみなし労働時間以上の働きをしてくれば、人件費削減を考える事業主にとって嬉しい状況が生まれているとも感じられるかもしれません。

しかし長時間労働が長きに渡って続けば、従業員の心身の不調が起こりやすくなるのです。

《長時間労働をチェックする体制も必要》

裁量労働制の従業員があまりにも長時間労働を続けていると、この制度の対象とならないスタッフについても長く会社に居続けなければならない雰囲気が生まれるようになります。

こうした悪循環にブレーキをかけるためには、常時80時間の過労死ラインを超えた従業員との面談を含めた対処を行う必要が出てきます。

またプロジェクト全体が忙しく早く帰宅できない空気感が強い場合は、会社側で定退日(定時退社のできる日)などを設けて週に1度だけでも帰れる雰囲気を作ってあげても良さそうです。

裁量労働制に生じやすい問題と対処法4 出退勤時間が決まっている

ここまで何度も紹介しているように、裁量労働制の従業員は基本的に自由なタイミングで出退勤ができるようになります。

しかし裁量労働制の対象者が少なく、大半の従業員が始業時間に出勤する会社の場合、全従業員に出退勤時間が強制的に決められているケースも少なくないようです。

こうした状況下で仕事をする裁量労働制の従業員は、朝早く会社にくるのに、夜遅くまで自分の作業をし続けなければならないといった状況により、心身を壊しやすくなりますので注意が必要です。

《裁量労働制は会社側で出退勤時間を決められない》

このケースに近い問題が生じている場合、まずは労働者代表もしくは労働組合に苦情を言う必要があります。

また一般的な事業主の中には「従業員に直接指導をすれば良いだろう」といった考えを持つ人もいるようですが、自由な働き方に繋がる裁量労働制を導入している場合は、こうした強制は基本的にできない形となるため、注意が必要です。

現場の雰囲気と裁量労働制の板挟みによって自由な出退勤のできない従業員が多い場合は、事業主の勝手な判断で行動を起こす前に、労働基準法に詳しい弁護士に相談をするのが理想となるでしょう。

裁量労働制に生じやすい問題と対処法5 休日出勤が非常に多い

裁量労働制の従業員に対しても、休日出勤をした場合の手当はきちんと支給する必要があります。

またこれから社内に裁量労働制を導入する場合は、実際に運用がスタートしてから労使間に問題を生じさせないためにも、裁量労働制の休日出勤規程を就業規則の中に記載しておくことも忘れないようにしてください。

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